シュガーロード紀行 熊本#001 細川忠興と加勢以多

シュガーロード紀行 熊本#001 細川忠興と加勢以多

謎のお菓子 ”カセイタ”

”カセイタ”というお菓子の存在をはじめて知ったのは、今から7~8年前、オノ・ナツメさんの「つらつらわらじ」を読んでいた時のことだった。

(「つらつらわらじ」は、江戸時代 備中岡山藩のお殿様が岡山から江戸まで参勤交代を行う道中を描いた漫画で、”カセイタ” は大阪の豪商がお殿様に献上するお菓子として登場する 。)

作中にはこのような絵が一コマあるだけ。
見た目は何だか平べったいサンドウィッチのようにも見える。

熊本のお菓子であること、漢字で表記すると”加勢以多”になることは知ることができたが、それ以上の詳しい記述はない。何で出来ているのか、どんな味なのかもわからなかったけど、風変わりな響きもあって、このお菓子の名前は妙に記憶に残るものだった。

それから数年後、「肥前の菓子」を読んだ際に、この”カセイタ”に再び出会うことになる。

本を読んで知ったが、実は”カセイタ”もシュガーロードと非常に深い関係のあるお菓子だった。
これは是非現地に出向いて入手したいと思い、熊本に出かけることにする。

熊本へ

というわけで、初夏の某日 熊本へやって来た。
博多からは九州新幹線で約50分ほどで到着する。

これは熊本市役所の展望ロビーから見る修復工事中の熊本城。

2,019年6月現在、熊本城はいまだ広範囲にわたり立ち入りができない状況が続いている。
崩れた石垣の石ひとつひとつを全て元通りに組み直すなど、気の遠くなるような修復作業が行われている最中だが、こうやって少しづつでもお城がもとの姿に戻っていく様子は見ていて嬉しくなる。

”カセイタ”=加勢以多

“カセイタ”は、この熊本城を居城とした大名 細川家と深い関連がある。

「肥前の菓子」には、”カセイタ”についてこう書かれている。

“加勢以多”は、文化の十字路肥前からもたらされたものでこの起源はポルトガルにあり、江戸期は全国に存在していた。
マルメロという果実の果肉を練り固めたもので、その異国情緒あふれる味わいを肥後熊本の細川三斉公が好み熊本に持ち帰ったものである。
加勢以多は、かせ板とも書き語源はポルトガル語の「カイシャダ・マルメラーダ」、すなわち「マルメラーダの箱」が日本語に置き換えられたと伝えられている。

不思議な響きをもつ名前はポルトガル語が変化したものだったと知り、なるほどと思った。

細川三斉=忠興といえば、熊本の前に訪れた小倉とも関連がある。

忠興は関ヶ原の戦いの後 豊前国を拝領、それまでは小さな城だった小倉城を約七年かけて大きな城に改築し居城とした。
その後家督を子の忠利に譲って隠居、名前を三斉と改める。
忠利の代に細川家は豊前小倉から肥後熊本に移封、石高も四十万石から五十四万石に加増された。

忠興は戦国の乱世を生き抜いた武将でもあり、和歌や学問に秀でた当代きっての文化人でもあった。特に茶道については、千利休の高弟の一人にも数えられるほど造詣が深い人物だった。

加勢以多は忠興が茶菓子として重用したことで熊本に根付き、のちに幕府への献上品や諸大名への贈答品としても用いられた。
原料となるマルメロは日本になかったため、カリンや梨で代用して作られていたらしい。

写真はWikipediaより。左がマルメロ、右がカリン。

分類上は全く別の属種だが、こうやって並べて見ると外見はよく似ているかもしれない…。

加勢以多は長らく熊本の山城屋という菓子店が生産していたそうだが、山城屋は昭和60年代に廃業、製造も一時途絶えた時期があった。その後平成に入りお菓子の香梅さんが製造を継承、加勢以多は復活し現在に至っているとのこと。

こちらがお菓子の香梅さんの白山本店。
「誉の陣太鼓」や「武者がえし」でも知られる熊本の菓子店。ここで加勢以多を購入する。

本店の中には喫茶スペースも併設されている。これはひと休みがてら店内で食べた陣太鼓ソフト。
陣太鼓に使用されている大納言あずきと求肥が入ってる。限られた店舗で提供されている商品らしい。


入手した加勢以多を実食してみたい。

まるで長持を思わせるような濃紺の箱に入っていて、掛け紙には「古今伝授の間香梅」とある。
水前寺公園にある古今伝授の間と隣接する茶屋でも、この菓子がお茶とともに提供されているらしい。
(詳しくはこちら→ 古今伝授の間 – お菓子の香梅

箱を開けると中には紙にくるまれた小さくて薄いお菓子が詰まっていた。
表面の白い部分はもち米で作ったおぼろ種、細川家の家紋である九曜紋の焼印が押され、なかには砂糖で煮て餡状にしたカリンが挟んである。

食べてみると、果実の爽やかな酸味が広がる。
カリンという普段あまり食べたことのない果物でもあるせいか、和菓子としては新鮮な味わいに感じた。

(来訪日:2019/06/23)