夢野久作「少女地獄」についての断片的考察

第一話「なんでもない」

作中に登場する耳鼻科医のモデルは夢野久作の義弟にあたる石井舜耳氏と推測される。
石井氏は横浜で耳鼻科医院を開いていたが、作品に登場する臼杵医院の所在地も同じく横浜。耳鼻科関連の知識も彼から得たと思われる。この石井氏と妻(=久作の異母妹)は久作と特に親しい間柄だったことに加え、探偵小説好きだったこともあり、新青年応募前の「あやかしの鼓」を読ませて意見を聞くなど、作家としての夢野久作の姿も間近で見ていた人物といえる。

東京で久作が急逝した際、急ぎ駆け付けた近郊の身内のなかで、医師資格を持っていた故に図らずも彼の死亡確認を行うことになったのもこの石井氏だったとのこと。久作との交流や没後の回想は「怪物夢久の解剖」「久作の死んだ日」等に書き遺されている。

第二話「殺人リレー」

作品の舞台は福岡及びその近郊。作中にはバスの走るルートとして「筥崎」「多々羅」「香椎」「折尾」などの地名が登場する。また車道と交差する鉄道は現在の鹿児島本線と考えられる。
(なお箱崎水族館喫茶室店主さんに伺ったお話しによると、作品が書かれた当時、箱崎地区で実際にバスが走行していたのが現在の妙見通りとのこと。)
福岡市でバスの運行が始まったのは昭和2年、8人乗りで走行区間は西公園-博多・箱崎だった。
「殺人リレー」の発表は昭和9年。バス車掌という仕事が非常に先鋭的な存在だったことも窺える。

参照:福岡県立図書館 福岡市近代史略年表
https://lib.pref.fukuoka.jp/hp/tosho/kindai/nenpyou3.htm
参照:明治・大正・昭和(戦前)の福岡市街地図
https://lib.pref.fukuoka.jp/hp/tosho/kindai/index.html#select2

バスについて、作中には「一九三二年型のシボレー」とあるが、西鉄WEBミュージアムの歴代車両図鑑 1930年代のページを見ると「6〜12人乗りのフォードやシボレーなどのアメリカ車が主流であった」との記載がある。
下記ページには当時使用されていたシボレーの画像も掲載されている。
https://nnr.co.jp/museum/buss/01.html

第三話「火星の女」

この物語の主人公、人並外れた運動能力と恵まれた体格を持つ女学生 甘川歌枝のモデルは、日本女性初のオリンピックメダリスト 人見絹枝。(1907/01/01-1931/08/02)

当時、女性が陸上競技を行うことに対しても”冷たい視線”を向けられ、理解が得られ辛い環境だったことが人見の回想からも窺われる。
作品後半で主人公は大阪の新聞社への就職が決まるが、人見も大阪毎日新聞社へ入社、運動部に配属された経歴がある。また、人見は度重なる競技会出場に加え新聞社の仕事、寄付に対する御礼の活動等で体調を崩し、肺炎により24歳の若さで病没している。
参照:Wikipedia 人見絹枝

Twitterにて杉山満丸氏にいただいたリプライによれば、「人見絹枝が政治に利用されてかわいそうという想いから祖父が書いたと父(=杉山龍丸氏)から聞きました」とのこと。

作中に登場する”天神の森”は現在の水鏡天満宮付近に広がっていた森、森栖校長らが乱痴気騒ぎを繰り広げる温泉旅館は二日市温泉に実在する某老舗旅館と推測される。

創作の元となった出来事の一つが福岡で昭和8年に起きた”黒焦げ死体事件”。
糟屋郡須恵村の火葬場で黒焦げになった少女の死体が発見される。その後の捜査で被害者は脳膜炎を患い障害を持つ少女、犯人は彼女の養父と判明。多額の養育費に目が眩み引きとったものの、養女の存在が苦になり殺害、他殺と見せかける為に遺体を黒焦げにし遺棄した事件だった、とのこと。

 

その他附記

【実在事件とのリンク】
第3話「火星の女」だけでなく、第1話「なんでもない」第2話「殺人リレー」についても、久作が創作の着想を得たと思われる事件が実在する。

偽伯爵令嬢事件→「なんでもない」
昭和10年4月博多住吉の旅館で起こった事件。
嘉穂郡山田町の料理屋酌婦が自身を伯爵令嬢と騙り料金未払いのまま旅館に長期滞在、知人の侯爵から大金を受け取る、と護衛の巡査まで動員させて下関へ赴いたところで嘘がばれる。

偽検事結婚詐欺事件→「殺人リレー」
昭和5年 九州帝大法学部の学生 西田某は「卒業後は東京で検事に任命される」と騙り、婚約者の福岡県椎田町の女教師に多額の金を使わせる。西田の卒業後盛大な見送りを受け2人は東京へ旅立つが西田検事なる人物は存在しないことがわかり男は婚詐罪で逮捕される。

地元で起こる様々な事件を元に数多くの作品を書いたのは、新聞記者でもあった久作ならではの創作方法と言える。

【”地球”と呼ばれた少年・ “火星”と綽名された少女】
夢野久作の少年時代の綽名「地球」の由来は、既成の帽子が合わない程に頭が大きかったから、というのが通説だが、杉山龍丸著「わが父・夢野久作」には以下のような記載がある、
当時彼の父 杉山茂丸は二度にわたり渡米し、J.P.モルガンから巨額のドル借款を取りつけ日本興業銀行の設立を目論んでいた時期だったが、茂丸に反対する人々が「団々珍聞」なる雑誌を作り茂丸の悪口を多く載せたそうで、その表紙に描かれていたのが手足の生えた大きな地球だった。これが有名になり福岡にまで伝わって、茂丸の子である久作に「地球」というあだ名がつけられたとも考えられる、と。

第三話の主人公、甘川歌枝の綽名は「火星さん」。
否応なしに周囲から突出してしまう自己に対し、自分だけがみんなと違う、まるで異星人であるかのような疎外感・孤独感を感じていた少年時代の体験が、同じく人並外れた能力を持つが故に孤立し苦悩する主人公の姿に投影されているとも考えられる。

【本の出版は作者の没後】
全3話の中で、生前に発表されたのは「殺人リレー」のみ。
他2話を加え、黒白書房より「かきおろし探偵傑作叢書」の第一巻として「少女地獄」が刊行されたのは昭和11年3月20日、その9日前に久作は急逝している。


夢野久作「少女地獄」は青空文庫でも公開されています。
https://www.aozora.gr.jp/cards/000096/card935.html

参考文献・資料
夢野久作の世界/西原和海 編
わが父・夢野久作/杉山龍丸
快人Q作ランド/夢野久作展実行委員会
福岡ミステリー案内 赤煉瓦館事件簿/福岡市総合図書館文学・文書課

ユメノ銀河

公開時に映画館で観た映画を久しぶりに観る。

浅野忠信がこんなに細面で怜悧な顔立ちだったかと驚いた。
小嶺麗奈もとても可愛い。可愛いんだけど、終始張りつめた表情をしている。全編を通して見ても(友達と一緒に居るときに、僅かに微笑むことはあっても)笑顔のシーンは殆どない。

そして2,3シーン 短い時間しか登場しないのに嶋田久作の存在感が凄い。冒頭の、着物を翻してトンネルの闇に消えていく姿が印象的。

台詞が多いわけでもなく、表面的には静かなモノクロの映像が続いていく。
だけどそれは、登場人物たちの激しい感情を押し殺したような緊張感を絶えず孕んでいる。


公開時、映画館でパンフレットを買った記憶があるんだけど、探しても無い。
処分することはない筈だけど何処かに行ってしまったらしい。

手許になければ、何故か一層惜しい物のような気がしてきて、ネットオークションで探して入手した。

原作の少女地獄は昭和10年頃に書かれた作品だが、この映画では時代設定を昭和30年代に変更してある。舞台となる街も或る地方都市というだけで詳細な場所の特定もなされていない。(が、「玄海港行き臨時列車」など北部九州を想起させる地名は出てくる。)
パンフレットにはその架空の街とバスの路線図も載っている。

三苫鐡児氏(久作の次男)も寄稿されていた。添えられた肩書は”夢野久作・杉山茂丸 研究者”となっている。

ロケ地が何処だったのかがすごく気になっていたのだが、ほぼ関東だったようで九州では撮影は行われていないらしい。エンドロールには大井川鉄道の文字があったので鉄道関連のシーンの撮影についてはその路線が使用されたのかもしれない。
特に気になるのはラストシーンの海岸なのだが、それについては特に書かれていなかった。

海岸と言えば、映画版の「ドグラ・マグラ」で一郎が絵巻物に見入るシーンの海岸も何処なのか気になる。あの海岸も岩の形がすごく特徴的だった。

開催レポート:ユメノマタ夢 第参回読書会「福岡」

7月26日、ユメノマタ夢第参回読書会を開催いたしました。
今回のテーマは「福岡」。

福岡を舞台とした作品・福岡に関わりのある人が作者の本・福岡に関する事柄について書かれた本など何かしら福岡に関連する本、ジャンルも小説や文芸書のみに限らず、歴史書・論文・地図・漫画などでも可、ということで参加者様に本を持ち寄っていただき紹介やディスカッションを行いました。
ご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

今回の読書会で取り上げたのは以下の作品です。

●百瀬、こっちを向いて/中田永一
●コッペリア/加納朋子
●神屋宗湛が残した日記/井伏鱒二
●神屋宗湛/武野要子
●へうげもの5巻/山田芳裕
●福岡ミステリー案内赤煉瓦事件簿


今回は主催の念願だった赤煉瓦文化館での初の読書会開催となりました。
(当初5月に開催を計画していたものの、新型コロナウイルス流行の影響で会場が使用不可となったため開催も中止、7月に改めて開催した次第です。)

本の集合写真を撮り忘れたので会の中で印象に残った会話をいくつか。
・中田永一?誰? (→ 実は久留米出身のあの有名作家の別ペンネームでした。)
・加納朋子さんも福岡出身
・へうげもの5巻は特に博多に関連する人物や場所が登場して面白い
・「楢柴肩衝」の歴代所有者の話(神屋宗白→島井宗室→秋月種実→豊臣秀吉)
・「博多文琳」は今でも市の美術館で見れるのがすごい 福岡市美術館の博多文琳のページ

など。


会の終了後は文化館の地下の新設備も見学しました。
以前は立ち入りできない区画でしたが、約一年前からコワーキングスペースや工作スペースとして利用できるようになったそうです。
(設置されている機器も今のところ無料で使用可能とのこと、案内していただいたスタッフさんのお話しでは今後3Dプリンターも導入する予定があるそう。 )

以前は文学関連の資料が展示されていましたが、現在はエンジニアカフェの併設もあって館の利用も理工系分野向けに変化しているのかもしれません。
休日ということもあり他の会議室でもそれぞれ会合が開かれていて、「博多なぞなぞの会」定例会が気になりました。


※今後のユメノマタ夢読書会について
本年の読書会は今回をもって一旦終了といたします。今後の開催については目処が立ち次第Twitterとこのサイトにて告知予定です。

福岡ミステリー案内 赤煉瓦館事件簿

2006年に福岡市文学館で開催された企画展「福岡ミステリー案内 赤煉瓦館事件簿」の内容をまとめた書籍。朧げな記憶だが、実際に展覧会も観に行った覚えがある。

最近久しぶりに福岡市の総合図書館に行った際、この書籍が販売されていたのを見つけたので購入した。奥付にも ”編集・発行 福岡市総合図書館文学・文書課” と記されている。


普段存命中の作家の作品もミステリー小説もあまり読まないため詳しく知らなかったのだが、福岡は地元出身の小説家さんが結構いらっしゃるだけでなく、(出身ではない方の作品も含めて)物語の舞台として福岡を描いた作品も多数あるらしい。

この本には、そういったミステリー作品の中で描かれた福岡の姿を区ごとにまとめて紹介する「警察官区別事件簿」という章もあった。

福岡ゆかりの作家として紹介されているのは
夏樹静子・石沢英太郎・中村光至・杉本章子・白石一郎・大下宇陀児・多岐川恭・渡辺啓助・大西巨人・花田清輝 など。
乙一はインタビューも掲載されている。

そして勿論、夢野久作も。
福岡で執筆を続け福岡を舞台とした作品を多く書き残した特筆すべき存在として、しっかり取り上げられていて嬉しい。


この本では地元出身の作家や文学作品の紹介だけでなく、明治、大正から昭和を経て現代に至るまでの福岡の変遷(経済・交通・観光)、さらには実際に起こった刑事事件とそれらを基に書かれた作品も紹介されていたのが特に面白かった。

夢野久作も地元で実際に起こった事件に着想した作品を書き残している。
(大正6年住吉町箕島で発生したイルマ殺し事件をもとに「S岬西洋婦人殺人事件 」、昭和8年糟屋郡で発生した黒焦げ死体事件をもとに 「火星の女 」など。  )

その他にも、
広域指定105号事件 、保険金替玉殺人事件 (これは厳密に言えば福岡ではなく佐賀で起こった事件だが) など、”事実は小説よりも奇なり “という言葉そのままに、思いもよらない展開を見せた事件もあったことも興味深い。


福岡という都市そのものが、時と共に刻々と姿を変える生き物だということを改めて感じる。

そして市内の普段からよく知っているような見慣れた場所でも、ミステリー作品の中に描かれたその姿はいつもとちょっと違って見えるし、時代をさかのぼった作品の中では、まるで未知の場所のように全く違った様相を見せる。

時々そうやって現実とフィクションの間を彷徨ってみるのも楽しい。

「旅する和菓子」

新型コロナウイルス感染拡大に伴い、福岡も対象地域に含まれる緊急事態宣言が発表されたのが2020年4月7日。
勤務先もリモートワークとなり、出社はしなくなったものの平日は自宅で仕事をする日々となった。

スーパーへ買い出しに出掛ける以外は殆ど家に引きこもり、寝て起きて仕事を繰り返す生活が続いていた4月下旬のある日、ネットを見ていたらこんな記事を見つけた。

コロナ禍の先を目指す菓子店の「ステイホーム」提案!
老舗も若き当主達の挑戦で前進
https://news.yahoo.co.jp/byline/hiraiwario/20200427-00175114/

記事ではコロナ禍によって菓子店も危機に立たされていること、特に和菓子店は地場の観光地・お土産店への出荷もなくなり、既に納品していた商品まで返品されてきたりで更に苦しい状況にあること、その一方でこのピンチをチャンスに変えるべく、SNSやネット通販などの新しい手法で販路を開こうと奮闘している老舗和菓子店の取り組みなどが紹介されていた。

記事で紹介された商品で特に興味を惹かれたのが、若手の和菓子屋店主が地域を超えて連携することで実現した企画商品、「旅する和菓子」。

旅行に行きたくても行けない時だからこそ、様々な土地のお菓子を家に居ながら楽しんでもらおう、ということで日本各地の和菓子店4店の和菓子を詰め合わせにした商品とのこと。

なにこれ素敵…!

外出できない&お菓子店もほぼ閉まっている&気の滅入り具合もピークに達していた時期だったこともあり、この「旅する和菓子」をさっそく注文してみることにした。



注文から数日後、お店から発送完了のメールが届き、その翌々日くらいに商品が到着した。宅配会社の紙袋の梱包の中に、手提げ袋に入れられてお菓子が詰まっている。


こちらが商品の全容。どんなお菓子か気になるものばかりだが一度に色々食べてしまうのはもったいない気がしたので、1日1種類づつ食べていくことする。


1日目「乙女のひととき」広島県呉市 蜜屋


まずはこの「旅する和菓子」を企画した広島の蜜屋さんのお菓子。商品名もパッケージもかわいい。
一見ふつうのどらやきだが、餡の中にはドライフルーツやナッツが入っている。餡の甘さはやや控えめなので、フルーツの味もしっかり感じられた。蜂蜜も入っているのでまろやかな味わい。

2日目「鎌倉さんぽ道」神奈川県鎌倉市 茶の子


もなか、と思ったらもなかじゃなかった…。楓型のもなかの皮の中に入っているのは胡麻の風味豊かなサブレ。

厚みがあるサブレなのにすごく軽い食感…!原材料を見ると米粉と書いてあったが、この軽さは米粉によるものなのか?
もなかの皮もすごくサクサクしてて、これは日本茶にもコーヒーにもあいそうな味…。

3日目「ガーデンハックルベリーどら焼き」岩手県奥州市 高千代


今回のお菓子の中で、ビジュアル面で一番気になっていたのがこのお菓子。
すごく鮮やかな紫色のクリーム…

ガーデンハックルベリーという果実の存在自体を初めて知った。
”ベリー”と名前がついてはいるけど、これはナス科ナス属イヌホオズキ類に分類されるそうで、バラ科に属する苺などのベリー類とは全く別種の植物だそう。


更に気になるのは、パッケージに書いてある文字。
「江刺自動車学校の職員さんが丹精込めて育てたガーデンハックルベリーと発酵バターのまさかの出会い」

自動車学校さんが果物を育てているのは何故なのか…
検索してサイトを見てみたら、その理由に「なるほど」と思わされた。
江刺自動車学校農産グループ えさしベリーのサイト 

恐る恐る食べてみたが思いのほか美味しい。 ブルーベリーに似た果実の味は発酵バターともよく合う。濃厚なクリームの味も見た目もどら焼きというよりオムレットって感じ。

お店のサイトを見ると、高千代さんは大正年間に創業した老舗だが和菓子だけでなく洋菓子も作っているらしい。どら焼きが限りなく洋菓子ぽかったのも「なるほど」と思った。

4日目「HAKU」滋賀県高島市 NANASAN


白餡粉を使ったクッキー、中にはショコラ味のクッキーの層とアドベリー入りのホワイトチョコが入っている。
断面の色がすごくきれい!

またまた聞きなれない果物の名前が出てきたが、

「アドベリー」とはボイセンベリーという日本ではほとんど栽培されていない果実を安曇川の特産品とするため、多くの方に親しまれる愛称として命名したものです。

とのこと。
日本で初めて栽培に成功した場所が、このNANASANのお店や安曇川のある高島市なのだそう。


NANASANはアドベリーを軸に商品を展開するブランドで、ほかにも幾何学的な形と結晶のような色合いが美しい琥珀糖などを販売されている。
商品もパッケージも、日本的な伝統美と革新が融合したモダンな雰囲気、

5日目「広島まんまるちーず」広島県呉市 蜜屋


最後は再び蜜屋さんのお菓子。
やや小ぶりのお饅頭状のお菓子の中には三種のチーズ・洋酒漬けのドライフルーツなどが入っている。

箱に”オーブンで少し焼くと一層おいしい”的なことが書いてあったので焼いてみたら、チーズが溶けて確かにおいしい…
見た目はお饅頭だけど味はかなり洋風なあたり、福岡の明月堂さんの「通りもん」にも通じるものを感じる。お子さんや若い年代にすごく好かれそうな味。

ところで蜜屋さんは店名も「蜜」だし、今回入っていたお菓子2種にも地元広島産の蜂蜜が使われているし、蜜にこだわった商品づくりをされているお店なのかもしれない。


まとめ

今回食べた5種類のお菓子は、どれも初めて知るお店の初めて食べるお菓子ばかり、お店の所在地も広島・滋賀・神奈川・岩手と広い地域に亘っている。その土地でとれる蜂蜜、珍しい果物など、地元産の原料が生かされたお菓子が多かったのも印象的だった。

普段買いするものも旅先で買うものも、自分で選ぶお菓子はだいたいいつも同じだったり似た傾向のものになりがちなので、こうやって全く知らなかったお菓子を味わうのはすごく新鮮な体験だった。

また、それぞれのお菓子が思っていたほど和菓子和菓子していなくて、どちらかといえば洋菓子っぽい味わいのものが多かったのも良い意味で予想を裏切られた。

「旅する和菓子」は毎回参加する和菓子屋さんも入れ替わり、商品内容も全く違う構成になってるので、購入するたびに新しいお菓子に出会えるのも面白い。まだまだ国内の旅行もままならない時期ではあるが、今回知った遠い土地のお菓子屋さんにも、いつか実際に訪れることができればいいなぁと思う。

 

お菓子が纏う衣装と意匠「お菓子の包み紙」

 

シュガーロードの菓子を調べ始めたことがきっかけで、ここ最近は菓子について書かれた本を読むことが多くなった。
これも、菓子関連の本を探していた時に見つけた本。可愛らしい表紙に惹かれて思わず手にとった。

帯の文にあるように、著者が20年以上かけて集めた日本全国のお菓子屋の包み紙・箱・手提げ袋などの中から、特に選りすぐりの数々が紹介されている。

資生堂パーラーや虎屋など菓子店ごとに分けての紹介や、画家・デザイナーごとに分けての紹介もされている。今は閉店してしまった菓子店の包み紙も掲載されていた。

実はこの本の装丁にも、お菓子屋の包装紙のデザインがそのまま使われている。
表紙カバーは静岡県浜松市のまるたや洋菓子店、帯は長野県松本市の開運堂の包装紙。
特にまるたや洋菓子店の包装紙は色合いといい絵柄といい何とも言えない可愛らしさ。(後に知ったことだが、この包装紙、今から約60年前にデザインされたものらしい!全然古臭さを感じさせないデザイン!!)


画家で特に収録点数が多かったのが東郷青児、幾つもの店のお菓子のパッケージに彼の絵が使われている。
店主が青児の絵がすごく好きで、画家本人に直接依頼して包装紙やクッキー缶を作った菓子店もある。
青児が描く柔らかな色合いの女性の姿は 瀟洒な洋菓子とよく調和する。

竹久夢二の絵をお菓子のパッケージや包み紙に使っている菓子店は、岡山や会津若松など彼とゆかりのある土地に複数あるらしい。夢二のモダンな絵は和菓子・洋菓子 どちらとも合う。


著名画家やデザイナーによりつくられた包装紙やパッケージは勿論とても素敵なのだが、この本で取り上げられているのは、そういった”プロ”が作ったものではない作品も多い。

菓子店の主人や地元の印刷会社の職人さんなどが制作した包装紙にも、かわいいデザインのものがたくさんあることを知った。

地方の小さなお菓子屋さんにも、その店オリジナルの素敵な包装紙がある。
とるに足らないような些細なことかもしれないが、実はとても素晴らしいことなんじゃないだろうか。

遠い土地にあるお菓子屋の包み紙は、物珍しく見える所為もあってか、それに包まれているお菓子も何だかものすごく美味しそうな気がしてくるから不思議だ。


本の中には九州の菓子店の包装紙や手提げ袋もいくつか掲載されていた。福砂屋のカステラの包み紙、小浜食糧のクルス、千鳥屋本家のチロリアンの缶など。
どれも私が小さい頃からずっと変わらないデザインで今も売られ続けているお菓子だ。
こういった馴染みのあるお菓子は、パッケージを目にするだけで その味が記憶の中からすぐに蘇ってくる。

話がやや脱線するが、「ずっと変わらない」といえば東雲堂のにわかせんぺいのCM。
”♪たまにーはーケンカ―でー負ーけてこいー”
見るからに腕白そうな男の子がお母さんに叱られて、ケンカ相手の子の家にわかせんぺいを持って謝りに行くという内容。

あの男の子はきっともうおじさん(もしかしたらおじいさん?)になっているだろう。昭和の頃からずっと同じCMが使われているので解像度は低いし幅の狭い画面比率も昔のまま。

だけどもうここまでくると妙な愛着が湧いてきて、東雲堂が存在する限りずっとこのCMを使い続けてほしいとさえ思えてくる。


うちにも、食べ終わった後も捨てらずにとっているお菓子の箱がいくつかある。

この本にも載っていたが、DEMELのソリッドチョコレート猫ラベルの箱(個人的には「にゃんぺろチョコレート」と呼んでいる)。小さいサイズなのでこまごました文房具を入れている。

ANTIQUEのラスクの缶は台所で紅茶のティーバッグを入れている。
こんなかわいい缶は捨てることなんてできない。

そしてパッケージデザインが素敵な菓子店として私が挙げたいのは松翁軒。絵も素敵だけど、レトロ感漂う手書き風の文字もすごく好き 。


お菓子を作る人にとって、自分が心を込めて作ったお菓子は まるで我が子のような存在だろう。
それを包みいろどる包装紙には、大事な我が子にめいっぱいおしゃれをさせて店から送り出したい、という思いが込められているように思えてならない。

これから遠い場所に旅行することがあったら、その土地土地のお菓子屋さんで、箱や包み紙も楽しみながらお土産のお菓子を探してみたい。知らない土地を旅する楽しみや お菓子を見つける楽しみも一層増す気がする。


 お菓子の包み紙

100年前のパンデミック スペイン風邪と夢野久作

※比較年譜の制作にあたっては、西日本新聞電子版「スペイン風邪、猛威の記録 100年前の記事で新型コロナと比べてみた」(2020/03/22) の記事、「夢野久作-あらたなる夢-」河出書房新社/刊の「夢野久作 年譜」(西原和海氏 編) を参考にしました。

★:夢野久作(杉山泰道)に関する出来事
●:スペイン風邪・世界情勢等に関する出来事

【大正七年/1917】久作28才

★この年還俗。杉山農園に戻る 短歌グループ「浅香会」に参加
★1918.03 雑誌黒白創刊、杉山萌円・青杉居士等の名で小説・エッセイ等寄稿

●1918.03 スペイン風邪第1波発生 アメリカで流行

【大正八年/1918】久作29才

★1918.02 鎌田クラ嬢と結婚
★1918.09 杉山萌円名義の初著作出版

●1918.秋~  スペイン風邪第2波発生 10月上旬から日本全国に感染拡大
●1918.10.10 福岡県内初の患者が発生
●1918.11.11 第1次大戦の停戦協定が発効

★1918.11.24 九州日報に短歌発表
~1919.06まで断続的に掲載

●1918.12.01付 福岡日日新聞〈感冒漸く減退 福岡県下の患者一時は六十万人に達す〉

★この年喜多流の謡曲教授になる

【大正九年/1919】久作30才

★1919.04.21 九州日報に童話「正夢」発表
★1919.04.24 九州日報社に記者として入社
※加藤介春(「山羊髯編輯長」の津守編輯長のモデル)との出会い

●1919.春~秋 スペイン風邪第3波発生

★1919.05.26 長男 龍丸 誕生
★1919.05.28 九州日報に自筆漫画を添えた「時事漫画」発表
~1919.06.29号まで断続的に掲載

●1919.10 下旬から再びスペイン風邪流行、
※20年1月に患者数・死者数ともピークに達する

【大正十年/1920】久作31才

●1920.01.07付九州日報〈新年来ますます猛烈を極める〉1~5日の死者が104人に上ったと報道。
●1920.01.07付九州日報 全国各地の日本軍師団での患者数が計1万2千人に上ることを伝える。
●1920.01.11付九州日報 福岡県下の巡査教習所や筑豊地方の炭鉱で流感がまん延
●1920.01.16付九州日報 門司市の警察署長が映画館や劇場の館主に対して〈「予防口蓋」を着用せざる者は入場を拒絶すべき用訓示〉
●1920.01.19付九州日報 〈看護婦が足らぬ〉
●1920.01.19付九州日報 〈火葬場の如きも市内公私合わせて十五竈を有して居るが之が又毎日満員で、現在の調子で死亡率が増えたらやむなく棺を一日止めなければなるまいとの事〉
●1920.02.01付九州日報 〈終息に近づく〉〈流行の当初最も猖獗を極めし炭鉱地方に於いては其後予防注射の励行マスクの奨励等によりて只管其の予防に努めたる結果(略)漸次終息に向かえるもののごとし〉
●1920.02.14付九州日報 〈県下の流感ようやく衰ふ〉
●1920.05.14付九州日報 福岡県筑後地方で〈先月末より流行性感冒再燃・縣當局より救護班急派〉

★1920.05. 長編探偵小説「呉井譲次」を雑誌黒白にて連載開始
★1920.09. 「呉井譲次」→「蝋人形」に改題

【大正十一年/1921】久作32才

★1921.01. 「蝋人形」未完のまま連載中止。
※昭和8年に「暗黒公使(ダーク・ミニスター)」として再生

★1921.12.06 九州日報に童話「犬の王様」発表


第一次世界大戦と世界の流行

●1907年頃 1918年型インフルエンザ(スペイン風邪)の前駆体が発生

●1914.07.14 第一次世界大戦 勃発

●1916 フランス・エタプル駐屯地のイギリス陸軍内でスペインかぜと症状が類似する致死率の高い新種の病気が流行

●1918.03 スペイン風邪第1波 アメリカのデトロイトやサウスカロライナ州付近などで最初の流行

●1918.秋~ スペイン風邪第2波 世界中で同時期に発生、病原性が強まり重篤な合併症を起こし死者が急増

●1918.11.11 第一次世界大戦 停戦協定発効

●1919.春~秋 スペイン風邪第3波 世界中で流行、医師・看護師の感染者が多く医療崩壊が発生し更に感染拡大

※独・英・仏・米では第一次世界大戦時の検閲で報道が最小限に抑えられたのに対し、中立国だったスペインの状況は大きく報じらる

※1918.01~1920.12の間で世界中で5億人が感染(当時の全世界の人口の1/4に相当)
死者数:1,700万人~5000万人、1億人とする推計も


日本国内の流行

●スペイン風邪 第1回流行期 1918.08~1919.07
全国での患者数:約2117万人 死者:約26万人 死亡率:約1.2%

●スペイン風邪 第2回流行期 1919.08~1920.07
全国での患者数:約240万人 死者:約13万人 死亡率:5%以上

開催レポート:ユメノマタ夢 第弐回読書会「奇書」

2月22日、5名の方に参加いただきましてユメノマタ夢第弐回読書会を開催いたしました。
テーマは「奇書」。

ジャンルは不問、書かれている内容が奇妙だったり、装丁が変わっていたり、要するに”尋常でない”本を持ち寄っていただき紹介やディスカッションを行いました。

今回の読書会で取り上げたのは以下の作品です。


●極地探検記
●世界艶語辞典
●奇形全書
●きのこ文学名作選
●サイコパスの手帖
●ドグラ・マグラの夢

こちらは今回紹介された本の中で一番古い戦前に発行された本。
大きさは手帳ほど。ポケットに入れて常時携帯することを想定した本だったのでしょうか…。
(経年劣化が進んでいるため、普段はビニール袋に入れて保護されていました。)

また今回は、狩々博士 著 「ドグラ・マグラの夢」が2冊並ぶという珍しい(?)光景が撮影できました。1冊は主催が持参した本、もう1冊は参加者様が持参された本です。

ご参加いただきました皆様、ありがとうございました!

カステラが呼び覚ます甘い記憶 -松翁軒 カステラ文學館これくしょん

長崎の老舗カステラ店 松翁軒が地元新聞に掲載した読み物付き広告をまとめた本。

出版は2007年12月1日、文章は「シュガーロード 砂糖が出島にやってきた」などの著作がある明坂英二氏、イラストは下谷二助氏。松翁軒のオンラインショップを見ていた際に本のカテゴリがあり、そこで販売されていたのを見つけて購入した。


松翁軒の広告が掲載されたのは長崎新聞。この本には新聞に掲載した全三段の広告がそのまま原寸大で収録されている。全三段なのでまあまあ大きいスペースだが、文字もイラストも大きくレイアウトされている。この大胆なレイアウトは新聞掲載時にも大変目を惹いたのではないかと思う。

本にするにあたって、新聞広告の内容の解説や関連するエピソ―ドの紹介がそれぞれ見開き2ページぶんづつ追加されている。

明治期から昭和にかけて活躍した30人の文学者・文化人と、彼らとカステラにまつわる話が綴られていて、その30人は以下の通り。

樋口一葉・夏目漱石・北原白秋・正岡子規・芥川龍之介・西条八十・宮沢賢治・竹久夢二・森鴎外・島崎藤村・永井荷風・与謝野晶子・室生犀星・林芙美子・齋藤茂吉・三遊亭円朝・幸田露伴・藤沢周平・佐田稲子・井上靖・司馬遼太郎・內田百閒・森茉莉・池波正太郎・寺田寅彦・向田邦子・遠藤周作・野上弥生子・柴田錬三郎・金子光晴

芥川龍之介は酒が飲めず大の甘党だったそう。「こうやって食べるのが旨い」と、大きなカステラを手づかみでちぎって食べていたそうだが、写真などで見る芥川の風貌からは想像がつかないような意外な姿。

帝国陸軍の軍医だった森鴎外は、軍隊食として取り入れる為の検証をしていたのか、研究室でカステラを切り刻みその成分を詳細に分析している。

こういった感じでひとつひとつのエピソードが面白い。

また、記事の端には松翁軒の名前と商品の広告文がごく控えめに添えられている。

松翁軒の社風から出てくるものなのか この一連の新聞広告も或る種の「品の良さ」がある。私が松翁軒が好きなのは、商品がおいしいのは勿論だけど、こういった端々に感じられる「品の良さ」があるからだと思う。


「マドレーヌ効果(プルースト効果)」というものがある。
マルセル・プルーストが「失われた時を求めて」の冒頭で描いた、紅茶に浸したマドレーヌを口に含んだ途端に幼き日の思い出が鮮明に蘇るという、あの現象を指す言葉だ。フランスには「あなたのマドレーヌは何?」という言い回しもあるらしい。

フランスで云うところの「マドレーヌ効果」は、近代日本においては「カステラ効果」という言葉に置き換えることが出来るかもしれない。

当時は菓子の種類自体が今ほど多くなかったこともあるだろうが、明治~昭和の文学者たちがカステラについての文章を数多く書き残しているのも、それだけカステラが多くの人にとって馴染みがあり、かつ愛されていた菓子だったからだろうと思う。

懐かしい記憶を呼び起こすのは、カステラの甘い味と香りもさることながら、あの輝くような黄色の持つ視覚的効果も大きい気がする。


本のあとがきにはこう記してある。

おいしいカステラは長崎の文化です。この本は読むおいしいカステラです。

カステラにまつわる様々なエピソードを知ると、その味わいも一層深くなる気がする。

開催レポート:ユメノマタ夢 第壱回読書会「私の好きな夢野久作作品」

7月27日、ユメノマタ夢としては初の読書会を開催いたしました。
テーマは「私の好きな夢野久作作品」。
課題図書を読み討論する形式ではなく、各々がテーマに沿って好きな本を持ち寄り紹介する形式の読書会です、

今回の読書会で取り上げたのは以下の作品です。

● お茶の湯満腹談
● 三つの眼鏡
● お菓子の大舞踏会
● ビルディング
● 少女地獄

※夢野久作の作品は「青空文庫」でも読むことが出来ます。
https://www.aozora.gr.jp/index_pages/person96.html


エッセイ・童話・心理劇的短編等、色々なジャンルの作品が集まり、様々な観点から夢野久作作品の魅力について語り合えた回となりました。
紙の本だけでなく、kindleやスマートフォンを使用し電子書籍で読まれている方が多かったのも印象的でした。

今回ご参加頂いたのがお着物や茶道にもお詳しい方々で、それらについても興味深いお話が伺えましたのが楽しかったです。

参加頂きました皆様、ありがとうございました!