福岡ミステリー案内 赤煉瓦館事件簿

福岡ミステリー案内 赤煉瓦館事件簿

2006年に福岡市文学館で開催された企画展「福岡ミステリー案内 赤煉瓦館事件簿」の内容をまとめた書籍。朧げな記憶だが、実際に展覧会も観に行った覚えがある。

最近久しぶりに福岡市の総合図書館に行った際、この書籍が販売されていたのを見つけたので購入した。奥付にも ”編集・発行 福岡市総合図書館文学・文書課” と記されている。


普段存命中の作家の作品もミステリー小説もあまり読まないため詳しく知らなかったのだが、福岡は地元出身の小説家さんが結構いらっしゃるだけでなく、(出身ではない方の作品も含めて)物語の舞台として福岡を描いた作品も多数あるらしい。

この本には、そういったミステリー作品の中で描かれた福岡の姿を区ごとにまとめて紹介する「警察官区別事件簿」という章もあった。

福岡ゆかりの作家として紹介されているのは
夏樹静子・石沢英太郎・中村光至・杉本章子・白石一郎・大下宇陀児・多岐川恭・渡辺啓助・大西巨人・花田清輝 など。
乙一はインタビューも掲載されている。

そして勿論、夢野久作も。
福岡で執筆を続け福岡を舞台とした作品を多く書き残した特筆すべき存在として、しっかり取り上げられていて嬉しい。


この本では地元出身の作家や文学作品の紹介だけでなく、明治、大正から昭和を経て現代に至るまでの福岡の変遷(経済・交通・観光)、さらには実際に起こった刑事事件とそれらを基に書かれた作品も紹介されていたのが特に面白かった。

夢野久作も地元で実際に起こった事件に着想した作品を書き残している。
(大正6年住吉町箕島で発生したイルマ殺し事件をもとに「S岬西洋婦人殺人事件 」、昭和8年糟屋郡で発生した黒焦げ死体事件をもとに 「火星の女 」など。  )

その他にも、
広域指定105号事件 保険金替玉殺人事件 (これは厳密に言えば福岡ではなく佐賀で起こった事件だが) など、”事実は小説よりも奇なり “という言葉そのままに、思いもよらない展開を見せた事件もあったことも興味深い。


福岡という都市そのものが、時と共に刻々と姿を変える生き物だということを改めて感じる。

そして市内の普段からよく知っているような見慣れた場所でも、ミステリー作品の中に描かれたその姿はいつもとちょっと違って見えるし、時代をさかのぼった作品の中では、まるで未知の場所のように全く違った様相を見せる。

時々そうやって現実とフィクションの間を彷徨ってみるのも楽しい。