ユメノマタ夢とは
よく「福岡には観光で来ても見るべきものがあまりない」と言われます。
果たしてそうでしょうか。
確かに大きな天守閣を持つお城はありません。
福岡城の建造物は明治に入りそのほとんどが解体されてしまったので現在残っているのは石垣などの遺構のみです。
しかしこの場所は歴史を遡ってみると、黒田長政が福岡城を築く遥か昔には古代の外交窓口だった鴻臚館があった場所でもあります。
また、福岡市博物館の常設展示室に博多区付近の地層の断面ををそのまま運んできて展示している一角があります。
古代の地層にはじまり、中世の貿易で取引された陶器のかけら、戦乱の世に焼け野原になった際の焦土、江戸時代の人々が歩いた道の痕跡や建物の基礎の跡などが、数メートルの土の堆積の中にまるでレイヤーのように幾層も積み重なっている様を見ることが出来ます。
福岡市内に目立った史跡がないのは、この地層の堆積が示すように福岡が活発な生き物みたく絶えず活動を続け、史跡が史跡として残る間もないほどに旧来の歴史の上につねに新しい歴史を上書き保存して変化を重ねているからではないか、と私は思っています。
福岡と文学との関わりを改めて考えてみると、福岡出身の作家は勿論、福岡を題材や舞台にした文学作品も多数存在します。しかし広く知られているのはほんの一部で、その他多くの作家や作品は地元福岡の人にすら殆ど知られていないように思えます。
この「ユメノマタ夢」は、身近な場所に残る歴史の痕跡や、福岡にゆかりのある作家・作品に関連する場所を探訪し研究することを目的とする会です。
サブタイトルの”書ヲ捨テ街ニ出ル”とあるのは、本に書かれたことだけを読んで知識とするのではなく、実際にその場所に行き、自分の足で歩き自分の目で見ることを大事にしたいという思いからです。
過去の福岡の姿を探ると共に、身近にあったけど存在にすら気づいていなかったもの、時の流れの中で変化していくもの、更には風化し忘れられようとしているものについても少しでも記録に残すことが出来ればと考えています。