シュガーロード紀行 はじめに: 「肥前の菓子」との出会い

シュガーロード紀行 はじめに: 「肥前の菓子」との出会い

2017年の年明けのこと。
星占いの1年の運勢を読むと「今年は旅に出る年になる」ということが書いてあった。

それを読んだときは「ふうん」位にしか思わなかったけれど、その言葉は何となく気になって心に残るものだった。

その年の半ば、ある本を読んだことで、長崎街道の痕跡を実際に自分自身でたどってみようと思い立った。今思い返せば星占いの「旅に出る」という言葉はこのことを指していたのかもしれない。

2017年6月に長崎から始めたこの小紀行は、2019年4月に終点の小倉にたどり着いた。
紀行の記録をまとめるに際し、以下にこの紀行を始めるきっかけとなった本「肥前の菓子-シュガーロード長崎街道を行く-」の目次を記載しておきたい。


【肥前の菓子-シュガーロード長崎街道を行く-】 村岡安廣/著

〈第一部 肥前の菓子の今〉
梅鉢・逸口香・丸ぼうろ・白玉饅頭・けさちいな・羊羹・岸川饅頭・あめがた・カステラ・おこし・寿賀台・みどり

〈第二部 肥前の菓子の歴史〉
第一章 肥前の風土
文化の十字路 肥前・南蛮菓子と肥前・南蛮菓子の発展と佐賀・シュガーロード長崎街道・砂糖と中国文化・肥前人の気質

第二章 南蛮菓子
丸ぼうろ・カステラ・有平糖とぬくめ細工・カスドース・ザボン漬

第三章 伝来の南蛮菓子
加勢以多・鶏卵素麺・金平糖

第四章 米の菓子
肥前の米菓子・けいらん・白玉饅頭・おこし・あめがたとのんきい・口沙香と寒菊

第五章 小麦の菓子
岸川(多久)饅頭・松露饅頭・黒棒・逸口香(一口香)

第六章 小城羊羹
羹と伝統文化・小城の羊羹業の起源・櫻羊羹・機械化と大量生産


カステラも丸ぼうろもようかんも、身近にありすぎて普段は特に気にも留めずに食べていたお菓子だけど、実はその土地の文化・歴史・気候・地理的条件など、様々な要因によって生まれるべくして生まれたものだということに改めて気付かされる。

歴史的に見ると、北部九州という場所は、砂糖の恩恵を受け、昔からたくさんのお菓子に恵まれた特別な地域だったことも知ることが出来た。

砂糖そのものが貴重品として扱われた時代の人たちが抱いた「甘味への憧れ」がどれほどのものだったのか。「甘い」ということはそれだけで素晴らしいことで、甘味とはまさに甘美という字をあてるにふさわしい感覚だったに違いない、と思う。


「肥前の菓子」は今から十数年前に出版された本だが、この本の刊行時には存在していたものの現在は生産が途絶えているお菓子(唐津の大浦金盛堂の若緑)や、紀行時に出会えたけれど今はもう食べることのできなくなったお菓子(塩田の楠田製菓本舗の逸口香)もあった。

身近にあると思っているものほど、つい油断しているといつの間にかなくなってしまって、気づけば行方もわからない、ということがよくある。
今は何気なく口にしている昔ながらのお菓子だって今後そういう運命をたどるのかもしれない。

今まで生き残ってきた長崎街道の沿道に伝わるお菓子の記録を、私なりに書き記しておきたいと思う。