鍋島直正展 at 佐賀大学美術館

鍋島直正展 at 佐賀大学美術館

閉幕が迫った肥前さが幕末維新博覧会をもう一度見たくなり、平成三十一年の年明け早々に佐賀を訪れる。
雲が多く肌寒い日だったが、メイン会場はこの日も時間帯によっては混雑していた模様。

途中で立ち寄った図書館のロビーで、こんなフライヤーを見つけた。

佐賀大学美術館で、鍋島直正展という展示が開催されているらしい。
場所も近いので観に行ってみることにする。


こちらが会場。この美術館の名前は以前から聞いたことがあったが、訪れたのはこの日が初めて。
数年前にできたらしく まだ新しくてきれいな建物。


この展示は、2年前に建立された鍋島直正公銅像の製作過程を実際に製作に使用した銅像原型などと合わせて紹介するという内容だった。

会場で目を惹くのは、何と言っても高さ4mを超す巨大な銅像の原型。

(↑これは昨年春に佐賀城公園で撮った銅像の写真。)

実物も観たことがあるが、高い台座に載っているので細かい部分はあまりよく見えないし、何となく大きいことは分かっても実際にどれくらいの大きさなのかは把握がむづかしい。

今回展示されている原型は、その見上げるばかりの大きさにまず驚く。
すぐそばまで近寄って見ることが出来るので、像の細部のつくりもよく見える。素材はガラス繊維強化プラスチックらしい。

展示室の壁には、銅像の制作過程を記録した写真パネルが並び、原型がこの美術館へ搬入されて組み上げられていくまでの様子を撮影した映像も流されている。

この他に去年の暮れに建立されたばかりの島義勇像の原型、維新博に合わせて市内に設置された偉人モニュメント像の中の10体の原型なども展示してある。


会場入り口の案内によると、ちょうどこの日はギャラリートークも行われるとのことだったので聴講することにした。

講師は直正公の銅像制作を担当した佐賀大学の德安 和博教授。
実は島義勇像、偉人モニュメント10体の制作にあたったのも德安教授なのだそう。


直正公の銅像は、今から約100年前、生誕100年を記念して一度建立されている。
(その時の銅像建設委員会の長は大隈重信がつとめた。)
しかしこの像は、大東亜戦争中に発せられた金属回収令により供出されて無くなってしまった。

今回造られた銅像は生誕200年を記念した2代目の像になる。

德安教授のお話しによると、今回の制作では初代の像を極力復元するよう注意を払ったとのこと。
原型の製作は、僅かに残る当時の写真と 初代の像の完成時に記念品として配られた精巧なミニチュア版の直正公像を参考に作業が進められた。

巨大な銅像の制作は、旧来の製法では専門技術者の工房で大人数で寄ってたかって制作する手法がとられていたが、多くの人手も広い作業スペースも必要となり それらの確保自体がなかなか容易なことではない。

そこで今回の銅像製作では、大きな像を水平に輪切りにしたパーツに分ける手法がとられた。
こうすることで、少人数での限られたスペースでの作業でも効率よく制作を進めることが可能となった。

鋳造にあたっては、銅よりも強度が高いリン青銅が使用されている。
表面には車の塗装と同様の塗装が施されているので、風雨や日光による経年劣化にも強い仕上がりになっているそう。
また、今回の設置場所は視界が開けた広場なので、視覚的効果で像が実際より痩せて見えてしまうのを防ぐために、従来よりあえて胴回りをちょっと太くした造形となっている。


島義勇像の制作では、重心が安定した形状の直正公像と違い、二本足で立たせることになるので、いかにバランスをとるかに大変苦心があったとのこと。

(↑帰り道に撮った島義勇像。私の写真の撮り方がアレなので微妙な写りになっているけど、実際に見るともっと躍動感があってかっこいいです。)

この像は蝦夷地探検に向かう若き日の島義勇の姿を表現したもの。

島義勇の風貌は、黒澤映画に出てくるような野太い侍といった感じ。
写真でみる姿にも、眼光が鋭く 見るからに只物ではない気迫のようなものを感じるので、そういった雰囲気も像の表情やポーズによく表現されていると思う。


写真はWikipedia  から。



偉人モニュメントについても面白いお話しを聞くことが出来た。

德安教授曰く、製作した像の中で特にイケメンに仕上がったのは副島種臣。確かに凛々しい表情。(写真右)
大隈重信(写真左)は、老年期の写真が世間に広く知られているので、顔立ちについてはあえてその頃の容貌に寄せて造形したとのこと。

大木 喬任はおしゃれさんだったらしいので、足のつま先が見えないくらい袴の裾が長くしてある。

「像を作る」ということは、単に顔立ちや外見を似せた像を作るということではない。
その人の人間性や内面的なものなど、目には見えないものまでもを表現するよう、様々な工夫を凝らしながら作られていることを知ることが出来た。


ギャラリートークの後には蒸気機関車模型の実走デモンストレーションも見学することができた。

当時は石炭を燃やしてボイラーの水を沸騰させたようだが、今回はポットのお湯とガスボンベが使われた。

模型は小さな円形のレールの上を勢いよく走る。
直正公上覧の機関車模型走行試験の情景を彷彿とさせるものだった。

佐賀大学美術館 

(来訪日:2019/01/05)