お菓子が纏う衣装と意匠「お菓子の包み紙」

お菓子が纏う衣装と意匠「お菓子の包み紙」

 

シュガーロードの菓子を調べ始めたことがきっかけで、ここ最近は菓子について書かれた本を読むことが多くなった。
これも、菓子関連の本を探していた時に見つけた本。可愛らしい表紙に惹かれて思わず手にとった。

帯の文にあるように、著者が20年以上かけて集めた日本全国のお菓子屋の包み紙・箱・手提げ袋などの中から、特に選りすぐりの数々が紹介されている。

資生堂パーラーや虎屋など菓子店ごとに分けての紹介や、画家・デザイナーごとに分けての紹介もされている。今は閉店してしまった菓子店の包み紙も掲載されていた。

実はこの本の装丁にも、お菓子屋の包装紙のデザインがそのまま使われている。
表紙カバーは静岡県浜松市のまるたや洋菓子店、帯は長野県松本市の開運堂の包装紙。
特にまるたや洋菓子店の包装紙は色合いといい絵柄といい何とも言えない可愛らしさ。(後に知ったことだが、この包装紙、今から約60年前にデザインされたものらしい!全然古臭さを感じさせないデザイン!!)


画家で特に収録点数が多かったのが東郷青児、幾つもの店のお菓子のパッケージに彼の絵が使われている。
店主が青児の絵がすごく好きで、画家本人に直接依頼して包装紙やクッキー缶を作った菓子店もある。
青児が描く柔らかな色合いの女性の姿は 瀟洒な洋菓子とよく調和する。

竹久夢二の絵をお菓子のパッケージや包み紙に使っている菓子店は、岡山や会津若松など彼とゆかりのある土地に複数あるらしい。夢二のモダンな絵は和菓子・洋菓子 どちらとも合う。


著名画家やデザイナーによりつくられた包装紙やパッケージは勿論とても素敵なのだが、この本で取り上げられているのは、そういった”プロ”が作ったものではない作品も多い。

菓子店の主人や地元の印刷会社の職人さんなどが制作した包装紙にも、かわいいデザインのものがたくさんあることを知った。

地方の小さなお菓子屋さんにも、その店オリジナルの素敵な包装紙がある。
とるに足らないような些細なことかもしれないが、実はとても素晴らしいことなんじゃないだろうか。

遠い土地にあるお菓子屋の包み紙は、物珍しく見える所為もあってか、それに包まれているお菓子も何だかものすごく美味しそうな気がしてくるから不思議だ。


本の中には九州の菓子店の包装紙や手提げ袋もいくつか掲載されていた。福砂屋のカステラの包み紙、小浜食糧のクルス、千鳥屋本家のチロリアンの缶など。
どれも私が小さい頃からずっと変わらないデザインで今も売られ続けているお菓子だ。
こういった馴染みのあるお菓子は、パッケージを目にするだけで その味が記憶の中からすぐに蘇ってくる。

話がやや脱線するが、「ずっと変わらない」といえば東雲堂のにわかせんぺいのCM。
”♪たまにーはーケンカ―でー負ーけてこいー”
見るからに腕白そうな男の子がお母さんに叱られて、ケンカ相手の子の家にわかせんぺいを持って謝りに行くという内容。

あの男の子はきっともうおじさん(もしかしたらおじいさん?)になっているだろう。昭和の頃からずっと同じCMが使われているので解像度は低いし幅の狭い画面比率も昔のまま。

だけどもうここまでくると妙な愛着が湧いてきて、東雲堂が存在する限りずっとこのCMを使い続けてほしいとさえ思えてくる。


うちにも、食べ終わった後も捨てらずにとっているお菓子の箱がいくつかある。

この本にも載っていたが、DEMELのソリッドチョコレート猫ラベルの箱(個人的には「にゃんぺろチョコレート」と呼んでいる)。小さいサイズなのでこまごました文房具を入れている。

ANTIQUEのラスクの缶は台所で紅茶のティーバッグを入れている。
こんなかわいい缶は捨てることなんてできない。

そしてパッケージデザインが素敵な菓子店として私が挙げたいのは松翁軒。絵も素敵だけど、レトロ感漂う手書き風の文字もすごく好き 。


お菓子を作る人にとって、自分が心を込めて作ったお菓子は まるで我が子のような存在だろう。
それを包みいろどる包装紙には、大事な我が子にめいっぱいおしゃれをさせて店から送り出したい、という思いが込められているように思えてならない。

これから遠い場所に旅行することがあったら、その土地土地のお菓子屋さんで、箱や包み紙も楽しみながらお土産のお菓子を探してみたい。知らない土地を旅する楽しみや お菓子を見つける楽しみも一層増す気がする。


 お菓子の包み紙