「旅する和菓子」

「旅する和菓子」

新型コロナウイルス感染拡大に伴い、福岡も対象地域に含まれる緊急事態宣言が発表されたのが2020年4月7日。
勤務先もリモートワークとなり、出社はしなくなったものの平日は自宅で仕事をする日々となった。

スーパーへ買い出しに出掛ける以外は殆ど家に引きこもり、寝て起きて仕事を繰り返す生活が続いていた4月下旬のある日、ネットを見ていたらこんな記事を見つけた。

コロナ禍の先を目指す菓子店の「ステイホーム」提案!
老舗も若き当主達の挑戦で前進
https://news.yahoo.co.jp/byline/hiraiwario/20200427-00175114/

記事ではコロナ禍によって菓子店も危機に立たされていること、特に和菓子店は地場の観光地・お土産店への出荷もなくなり、既に納品していた商品まで返品されてきたりで更に苦しい状況にあること、その一方でこのピンチをチャンスに変えるべく、SNSやネット通販などの新しい手法で販路を開こうと奮闘している老舗和菓子店の取り組みなどが紹介されていた。

記事で紹介された商品で特に興味を惹かれたのが、若手の和菓子屋店主が地域を超えて連携することで実現した企画商品、「旅する和菓子」。

旅行に行きたくても行けない時だからこそ、様々な土地のお菓子を家に居ながら楽しんでもらおう、ということで日本各地の和菓子店4店の和菓子を詰め合わせにした商品とのこと。

なにこれ素敵…!

外出できない&お菓子店もほぼ閉まっている&気の滅入り具合もピークに達していた時期だったこともあり、この「旅する和菓子」をさっそく注文してみることにした。



注文から数日後、お店から発送完了のメールが届き、その翌々日くらいに商品が到着した。宅配会社の紙袋の梱包の中に、手提げ袋に入れられてお菓子が詰まっている。


こちらが商品の全容。どんなお菓子か気になるものばかりだが一度に色々食べてしまうのはもったいない気がしたので、1日1種類づつ食べていくことする。


1日目「乙女のひととき」広島県呉市 蜜屋


まずはこの「旅する和菓子」を企画した広島の蜜屋さんのお菓子。商品名もパッケージもかわいい。
一見ふつうのどらやきだが、餡の中にはドライフルーツやナッツが入っている。餡の甘さはやや控えめなので、フルーツの味もしっかり感じられた。蜂蜜も入っているのでまろやかな味わい。

2日目「鎌倉さんぽ道」神奈川県鎌倉市 茶の子


もなか、と思ったらもなかじゃなかった…。楓型のもなかの皮の中に入っているのは胡麻の風味豊かなサブレ。

厚みがあるサブレなのにすごく軽い食感…!原材料を見ると米粉と書いてあったが、この軽さは米粉によるものなのか?
もなかの皮もすごくサクサクしてて、これは日本茶にもコーヒーにもあいそうな味…。

3日目「ガーデンハックルベリーどら焼き」岩手県奥州市 高千代


今回のお菓子の中で、ビジュアル面で一番気になっていたのがこのお菓子。
すごく鮮やかな紫色のクリーム…

ガーデンハックルベリーという果実の存在自体を初めて知った。
”ベリー”と名前がついてはいるけど、これはナス科ナス属イヌホオズキ類に分類されるそうで、バラ科に属する苺などのベリー類とは全く別種の植物だそう。


更に気になるのは、パッケージに書いてある文字。
「江刺自動車学校の職員さんが丹精込めて育てたガーデンハックルベリーと発酵バターのまさかの出会い」

自動車学校さんが果物を育てているのは何故なのか…
検索してサイトを見てみたら、その理由に「なるほど」と思わされた。
江刺自動車学校農産グループ えさしベリーのサイト 

恐る恐る食べてみたが思いのほか美味しい。 ブルーベリーに似た果実の味は発酵バターともよく合う。濃厚なクリームの味も見た目もどら焼きというよりオムレットって感じ。

お店のサイトを見ると、高千代さんは大正年間に創業した老舗だが和菓子だけでなく洋菓子も作っているらしい。どら焼きが限りなく洋菓子ぽかったのも「なるほど」と思った。

4日目「HAKU」滋賀県高島市 NANASAN


白餡粉を使ったクッキー、中にはショコラ味のクッキーの層とアドベリー入りのホワイトチョコが入っている。
断面の色がすごくきれい!

またまた聞きなれない果物の名前が出てきたが、

「アドベリー」とはボイセンベリーという日本ではほとんど栽培されていない果実を安曇川の特産品とするため、多くの方に親しまれる愛称として命名したものです。

とのこと。
日本で初めて栽培に成功した場所が、このNANASANのお店や安曇川のある高島市なのだそう。


NANASANはアドベリーを軸に商品を展開するブランドで、ほかにも幾何学的な形と結晶のような色合いが美しい琥珀糖などを販売されている。
商品もパッケージも、日本的な伝統美と革新が融合したモダンな雰囲気、

5日目「広島まんまるちーず」広島県呉市 蜜屋


最後は再び蜜屋さんのお菓子。
やや小ぶりのお饅頭状のお菓子の中には三種のチーズ・洋酒漬けのドライフルーツなどが入っている。

箱に”オーブンで少し焼くと一層おいしい”的なことが書いてあったので焼いてみたら、チーズが溶けて確かにおいしい…
見た目はお饅頭だけど味はかなり洋風なあたり、福岡の明月堂さんの「通りもん」にも通じるものを感じる。お子さんや若い年代にすごく好かれそうな味。

ところで蜜屋さんは店名も「蜜」だし、今回入っていたお菓子2種にも地元広島産の蜂蜜が使われているし、蜜にこだわった商品づくりをされているお店なのかもしれない。


まとめ

今回食べた5種類のお菓子は、どれも初めて知るお店の初めて食べるお菓子ばかり、お店の所在地も広島・滋賀・神奈川・岩手と広い地域に亘っている。その土地でとれる蜂蜜、珍しい果物など、地元産の原料が生かされたお菓子が多かったのも印象的だった。

普段買いするものも旅先で買うものも、自分で選ぶお菓子はだいたいいつも同じだったり似た傾向のものになりがちなので、こうやって全く知らなかったお菓子を味わうのはすごく新鮮な体験だった。

また、それぞれのお菓子が思っていたほど和菓子和菓子していなくて、どちらかといえば洋菓子っぽい味わいのものが多かったのも良い意味で予想を裏切られた。

「旅する和菓子」は毎回参加する和菓子屋さんも入れ替わり、商品内容も全く違う構成になってるので、購入するたびに新しいお菓子に出会えるのも面白い。まだまだ国内の旅行もままならない時期ではあるが、今回知った遠い土地のお菓子屋さんにも、いつか実際に訪れることができればいいなぁと思う。