「九州大学箱崎キャンパス近代建築物ツアー」に行く

10月上旬、九州大学箱崎キャンパスの建築物見学ツアーが行われることを知った。
100年の歴史を持つ箱崎キャンパス内には、数多くの近代建築物が使用されてきました。
それらの建築物は、歴史を伝える貴重な遺産であることから、九州大学では、学術的に全ての近代建築物の記録保存を行い、既存容姿のまま保存・活用を行っていく建築物と、劣化が著しく、構造的に安全性に問題が認められる建築物については、後世に残せる復元可能な記録保存を行った上で解体等を行う方針としています。
今回、近々解体する閉鎖中の建築物の見学ツアーを開催し、解体前に、皆さまにも広く公開する機会を設けるものです。九州大学統合移転推進部統合移転推進課
九州大学HPより
解体前の建物を見学できるほぼ最後のチャンスだろうということで、見学ツアーに参加することにした。
ツアー当日。
大学の正門を観に行ってみる。
門も開けられ守衛さんもいたが、今日はここからの出入りは出来ませんとのこと。門の向こうの敷地には工事のフェンスが建てられていて中は見えない。
他にいくつかある出入口も閉じられるか、工事関係車両用の出入り口になっていた。
この日通れる出入口は理系・文系エリアの間の道路沿いにある中門だけ。
そこから構内に入り、集合場所の旧中央図書館エントランスホール前で受付を済ませて、貸出のインカムと資料を受け取る。
資料はこの日見学する建物の解説や詳細なデータ、見取り図がまとめてある。無料のツアーなのにこんな丁寧な資料まで頂いてしまった。この資料は大事にとっておこうと思う。
今回のツアーは、福岡建築ファウンデーション・箱崎九大跡地ファン倶楽部の方による解説をインカムで聞きながら農学部エリアの建物を見学していく。
(以下 各建物についての文章はこの時の解説と頂いた資料を参照して記載しています。)
農学部6号館(農芸化学教室)
昭和13年(1938)建造。
戦前に造られた鉄筋コンクリート建築の建物。かなり大きい。水平に整然と並ぶ大きな窓が印象的な外観。解説によると、これはインターナショナルスタイルという当時の先鋭的な建築様式を取り入れたものだったそう。
外壁が薄黒いのは、太平洋戦争の際に空襲を避けるため建物を黒く塗った名残とのこと。
玄関部分。
曲線型の梁が珍しい。これを作るには高い技術が必要らしい。丸窓とそれに施された装飾も面白い。
建物を側面から見ると、一番高いところに丸窓があって正面から見たときとはちょっと違うかわいらしい表情も観れる。
敷地内の樹木
キャンパス内でも特に農学部エリアには珍しい植物が色々植えられている。
農学部のメインストリートで飛びぬけた高さと個性的なシルエットでひときわ目を惹く木。(古代ナントカって名前。高さ約20m。)
同じくユーカリの巨木。
なお敷地内の樹木にはこんな感じで番号が振られている。
農学部実験室(汽罐室)
大正10年(1921)建造。
今回の見学ツアーの中で一番古い建物。設計したのは倉田謙という九大の建築物を数多く手がけた方だそう。
Wikipedia 倉田謙
建造時は煉瓦造りだったけどのちにモルタルで補強したそうで、こんな感じでモルタルが剥がれて下の煉瓦の壁が出てきている部分も。三角屋根の部分も煉瓦の外壁が残っている。
横から見たところ。屋根の上にさらに小さい屋根が載っている。しかも純和風の瓦葺き。
そういえば以前これと同じ作りの屋根を広滝第一発電所でも見た。
( ↑広滝第一発電所 佐賀県の山の中にある明治40年に建てられた煉瓦造りの水力発電所。写真は2014年に撮影したもの。)
この建物は入口の扉がなくなっていて内部も覗くことが出来た。
素晴らしいまでのゴスゴスしい荒廃ぶり。(褒め言葉です)
これは一体何の跡なんだろう。
汽罐室なので、ここにボイラーが置かれていたのだろうか。
砂防工学実験室
昭和9年(1934)建造。
横長の木造建物。側面は蔦で覆われている。
ドアや窓のひさしを支える三角の鉄の装飾が目を惹く。
装飾部分のアップ。
入口部分。照明の暈は琺瑯だろうか。
熱帯農学研究センター
昭和6年(1931)建造。
正面玄関前は生い茂った植物で囲まれている。
白っぽい壁とオレンジ色の瓦の色合いもかわいらしい木造の建物。板を横に張った外壁は「下見張り」という工法らしい。
玄関上には米の字にも見える木組みの装飾。
屋根の端にはローマ数字の「Ⅲ」のような彫刻、ひさしを支える木の側面に施された三角の装飾。
側面。規則的に並んだ木製の窓の柵。
建物部分は洋風だけど、屋根は和風の瓦で葺かれている。
建物正面にあるものと同じ窓が裏側にもあった。上部分が半円形になったかわいい形。
この建物は保存・再利用される方針らしい。
この建物の前で参加者全員の記念撮影を行って、約1時間のツアーは終了となった。
以下はツアー終了後に撮ったその他の写真。
砂防実験室の近くにあった物置っぽい建物。
熱帯農学研究センターの隣にあった建物。壁面に見える三角形は免震のために施工されたものだそうだが建物のアクセントになっている。
同じ建物の非常階段。
駐輪場に置かれたリヤカー。停められたままの自転車も処分されてしまうのだろうか。
建物の外に入口がある女子トイレ。色んな意味で使用するのに戸惑いを感じる造り。
なぜか使用時間は制限付き。夜や日曜日は施錠されるらしい。
中央図書館前の掲示板。
閉館のお知らせの貼り紙を見る人も もう誰もいない。
構内の案内板にも立入禁止の表示。
この案内板の上にかぶさる様に茂っている植物は紫色のかわいい実をつけていた。
今回見学した農学部エリアの横も工事用の柵で囲まれている。工事を担当している会社のものらしき大きな建物が建てられていた。
理系エリアと向かい合う文系エリアも既に立ち入り禁止になっている。
これは構内の外にあった建物。
木造瓦葺、水色のペンキ塗り、多分戦前からある建物なんじゃないだろうか。
門柱の看板には「九州大学生活協同組合」と書かれている。
よく見ると窓の装飾がすごく細かくてきれい。
この建物も取り壊されてしまうのかな…
箱崎キャンパスは平成30年で伊都キャンパスへの移転を完了する予定。
跡地に残る建物は、老朽化などの事情で取り壊すものもあるけど、保全し再利用を検討する建物もあり、今後用地の活用を検討したり、使用を希望する企業への販売、新しい整備が行われていくそう。
個人的には、建物は勿論だけど今敷地内に生えている木もできる限り残してほしいなぁと思う。
当日貰った資料と一緒に入っていた紙に書かれていたけど、これだけ広大なキャンパスなので古いものを遺していくにしても取り壊すにしても、お金もかかるし色々考えなければならない課題があるとのこと。
キャンパス移転によって、好むと好まざるとにかかわらず、これから箱崎のまち自体も色々な変化が起こっていくんだろうなと思った。
(来訪日:2018/10/20)
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