シュガーロード紀行 浜崎#001 けえらん

シュガーロード紀行 浜崎#001 けえらん

佐賀県北部 玄海灘沿いの旧東松浦郡地域にはけいらん(けえらん)という菓子がある。
浜崎にはそのけいらんを売るお店「伊藤けえらん」があるので立ち寄ってみたい。

唐津から4駅目の浜崎駅で下車する。


木造瓦葺きのレトロな駅舎も何だか趣のある佇まい。

お店は浜崎駅を出て少し歩いた場所にある。
付近には唐津街道も通っていて、道を挟んだお店の向かいには諏訪神社という古い神社もある。


お店のHPに記載してあったが、「けえらん」という名前には下記のような由来があるらしい。

太閤豊臣秀吉が朝鮮出兵で、浜崎は諏訪神社にて戦勝祈願をした際に地元民によって献上された戦勝祈願の菓子。

このときに秀吉が「これを食べたならば勝つまで帰らん」と語ったとされるエピソードが言い伝えられておりこの「帰らん」という言葉が次第に訛り「けえらん」という菓子名になったとされる。

–文献『日葡辞書』より引用-

「肥前の菓子」では、諏訪神社とけいらんとの関係も語られていた。

諏訪神社はまむしよけ・農作業の神様として近隣十里の人々から広く信仰を集める神社だったが、春の例祭の折には、参拝する人たちが各々けいらんを持ち寄って食していたこと。
太平洋戦争後は、唐津神社の例大祭における松露饅頭のように、諏訪神社例祭の参道にはけいらんの屋台が並ぶ風景が見られたこと 等。

松露饅頭もけいらんも、その土地に根付く信仰やお祭りによって育まれ、その土地の名物になったことがうかがえる。

これがけいらん。
粉状にしたお米を蒸して搗いて作った生地で餡を巻いてある。1つ¥100。よもぎ入りは¥110。
伊藤けえらんでは店内で食べることもできるのでお茶と一緒に頂く。


これも「肥前の菓子」からの引用だが、中国の上海にはこのけいらんと全く同じ見た目(ただし赤米を使うため餅の色は赤い)の菓子が存在するらしい。

菜畑遺跡の存在からも分かるように、唐津や浜崎を含む北部九州の玄海灘沿岸地域は大陸からの稲作文化がいちはやく伝えられた地域にあたる。
米を使用した菓子であるけえらんも大陸からもたらされ、伝播したときの原型をとどめた姿でこの地でずっと作り続けられてきたのだろう。

けいらんは日持ちがしないため、地元以外ではほとんど知られていなかった菓子だったが、近年は急速冷凍の技術によって通販での購入も可能になっている。

(来訪日:2018.07.06)